管理費を滞納する区分所有者への対応
区分所有者が管理費等を滞納したら
マンションの管理は,区分所有者が管理費・修繕積立金をきちんと支払うことで成り立っています。区分所有者の中に,管理費・修繕積立金を滞納する者がいる場合,滞納管理費等の回収は,管理組合にとって,極めて重要なミッションとなります。
滞納額がそれほどでもない場合
滞納額がまだそれほどでもない場合には,管理会社から滞納管理費を粘り強く請求していきます。管理会社から繰り返し請求してもらちがあかない場合には,管理会社の手を離れますので,管理組合が弁護士に依頼して,滞納管理費等を請求します。請求に応じない場合には,理事会決議等の手続を踏んだ上で,訴訟を起こします。
そこまで至れば支払うという区分所有者も少なくありません。裁判所で分割払いの和解をすることもあります。
訴訟まで起こされても支払わない区分所有者に対しては,判決を取り,当該区分所有建物を強制競売にかけることもあります。
なお,管理費・修繕積立金は建物区分所有法7条で,当該区分所有建物上に先取特権という法定担保物権を有するとされていますので,裁判を起こさずにいきなり担保競売の申立てをすることも可能です(通常は,裁判所での和解の可能性もにらんで,裁判を起こすことが多いですが)。
滞納額が多額に及んでいる場合
滞納額が多額に及ぶ状態になると,区分所有者としても,もはや払おうにも払えず,住宅ローンも滞納していて,判決を取って当該区分所有建物を強制競売にかけたり,担保競売の申立てをしても,いわゆる「無剰余取消」(民事執行法63条)の規定によって競売手続が取り消されてしまう,という状態になりがちです。
優先する住宅ローン債権の担保権の被担保債権額(残債務)の方が売却見込み額よりも多額で,競売しても管理費等債権まで回収が見込めない場合に,「無剰余」として競売手続が取り消されてしまうのです。
そのような状態に至った場合には,通常の競売ではなく,建物区分所有法59条に基づく区分所有権の競売請求訴訟を起こすという方法があります。
建物区分所有法59条に基づく競売請求訴訟で競売が認められれば,無剰余取消の規定は適用されませんので,当該区分所有建物を競売することができ,少なくとも,これ以上滞納管理費等を膨らませないことができます。また,買受人は滞納管理費等の支払義務を承継しますので(建物区分所有法8条),買受人に滞納管理費等を支払ってもらう形での解決も期待できます。
建物区分所有法59条に基づく競売請求訴訟が認められる要件として,①共同利益背反行為による共同生活上の障害が著しいこと,②他の方法に基づく請求によってはその障害の除去,区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であること,を裁判所に認めてもらうことが必要です。手続要件として,滞納区分所有者への弁明の機会の付与と,総会での特別決議が必要です。
ケースバイケースではありますが,滞納期間が2~3年間以上に及び,滞納している区分所有者が一向に滞納管理費等を支払わない場合で,住宅ローンも滞納しており通常の競売では無剰余取消が見込まれる場合には,上記①②の要件を満たしている,と裁判所に認めてもらえる可能性が高いといえます。
管理費等の回収を弁護士に依頼する必要性
管理費等の回収トラブルは,管理会社に任せるばかりで,滞納があっても法的手段を取らずに手をこまねいていると,どんどんと滞納額が増え,解決が難しくなっていきます。
管理費等の滞納は,マンションの長期修繕計画等にも悪影響を与える重要な問題ですから,管理会社による通常の請求ではらちがあかない場合には,早い段階で管理組合がマンションに詳しい弁護士に相談・依頼し,必要な法的手段を取っていく必要があります。
なお,規約において,違約金としての弁護士費用の支払義務が明記されている場合には,滞納管理費の回収に要する弁護士費用を,違約金として,滞納区分所有者に請求することが可能です。