土地明渡請求
一筋縄ではいかない土地明渡請求
土地を所有していても,建物所有を目的として土地を賃貸している場合,借地権が発生し,借地人の権利は借地借家法によってかなり強く保護されます。
借地人側に契約違反などがあっても,直ちに賃貸借契約を解除して土地の明渡しを実現できるかというと,そこにはハードルがあります。
土地明渡請求をお考えの場合は,解除通知などアクションを起こす前に,弁護士に相談されることをお勧め致します。
地代滞納による土地明渡請求
借地人が地代を滞納・遅滞しても,それだけで直ちに賃貸借契約を解除することは認められません。地代の滞納額や遅滞の頻度・程度等にかんがみ,地代の不払いが当事者間の信頼関係を破壊する程度のものである場合に,賃貸借契約の解除が認められます。
また,賃貸借契約書には「地代を一度でも滞納すれば催告を必要とせずに解除できる」と書いてあっても,実際には,催告なしでの解除は裁判所では無効とされるリスクが高いので,必ず催告をした上で,それでも地代の支払がない場合に解除を通知すべきです。
催告や解除通知は,後の証拠とする必要から,内容証明郵便で行うのがオーソドックスです。
裁判例では,地主からの地代増額請求に対し,借地人側が,底地の固定資産税額にも満たない金額の地代の供託を続けたような場合に,地代の滞納として賃貸借契約の解除を認めるものがあります。
借地権の無断譲渡による土地明渡請求
借地人が,地主に無断で,借地上の建物の名義を第三者に移転してしまった場合,当該第三者が当該建物を使用・収益すれば,地主は,借地権の無断譲渡を理由に,土地の賃貸借契約を解除できる,というのが原則です(民法612条)。
借地上の建物の所有権を第三者に移せば,それは借地権を第三者に譲渡したことになります。
一方,借地人が,地主に無断で,借地上の建物を第三者に賃貸しても,借地権を第三者に譲渡したことにはならず,土地の賃貸借契約の解除はできません。借地上の建物は借地人の所有であり,自由に使用収益できるからです。
借地人側が,法律をよく知らずに,借地上の建物の名義を第三者に移転してしまうということはままあるのですが,そうだとしても,土地の賃貸借契約の解除までは認められない場合もあります。
判例は,「賃借人が賃貸人の承諾なく第三者をして賃借物の使用収益を為さしめた場合においても,賃借人の当該行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足らない特段の事情がある場合においては,民法612条の解除権は発生しないものと解するを相当する」と判示しています(最高裁昭和28年9月25日判決)。
例えば,借地人が,個人名義から,個人が法人成りした法人名義に建物の名義を移転したが,建物利用の実態は変わっていない場合などは,「賃貸人に対する背信的行為と認めるに足らない特段の事情」と評価される場合もあります。
借地人の用法違反による土地明渡請求
土地の賃貸借契約において,増改築禁止の特約や,建物の種類・構造・用途等を制限する特約を置いているのに,借地人が特約に違反して無断で増改築を行ったり,建物の種類・構造・用途等を変更してしまったりした場合には,特約に基づき,賃貸借契約を解除して建物収去土地明渡しを請求できることがあります。
増改築や建物の種類・構造・用途等の変更については,借地人としては,地主が増改築や借地条件の変更を承諾しない場合には,裁判所に対して地主の承諾に代わる許可を求めることができますので(借地借家法17条),借地人がこの手続を踏まずに無断で増改築等を行った場合には,賃貸借契約の解除も有効と認められやすいといえます。
更新拒絶による土地明渡請求
借地借家法で借地権は強力に保護されており,地主が土地の賃貸借契約の更新を拒絶するには,借地人が借地権の存続期間満了に際して更新を請求してきたり,存続期間満了後も土地の使用を継続した場合に必ず「遅滞なく異議」を述べる必要があります。そうでないと,法定更新されてしまいます。
そして,「遅滞なく異議」を述べただけでは足りず,地主側で当該土地の使用を必要とする事情があり,借地に関する従前の経過,土地の利用状況,地主が申し出た立退料の金額を考慮して,「正当事由」がある場合でないと,やはり法定更新されてしまいます(借地借家法6条)。
「借地に関する従前の経過」では,賃貸借中の借地人の地代の支払状況,借地人の土地の使用の仕方,借地人側の信頼関係を破壊するような言動なども考慮されます。
「土地の利用状況」では,借地人による借地の使用状況,建物の状況,建替えのための土地有効利用の必要性などが考慮されます。
立退料は,「正当事由」を補完するものとして提供が必要であり,裁判例(平成以降)では,事案によって様々ですが,居住用地で900万円~6500万円,営業用地で120万円~1億4000万円の立退料の提供をもって「正当事由」ありとされたケースがあります。
地主側としては,更新拒絶を行うにあたっては,立退料の資金的裏付けについても十分に準備してから交渉にのぞむ必要があります。
使用貸借終了による土地明渡請求
地代の支払い無しで,親族に土地を無償で貸して,親族が土地上に親族名義の建物を建てて利用しているケースでは,法的には使用貸借契約に基づく土地の利用と解釈されることが多いといえます。
使用貸借契約の場合,当事者間で使用貸借期間を定めたときは,期間満了によって終了しますが,親族間の事案が多いため,使用貸借期間の定めがあるケースは少ないといえます。
多くのケースでは,地主側は,使用貸借の期間も使用収益の目的も定めていないから直ちに契約を解除できるとして,使用貸借契約の解除を主張し(民法598条2項),借主側で,使用収益の目的を定めている(例えば,当該建物が朽廃するまで)と主張する構図になります。
また,地主側としては,仮に使用収益の目的を定めていると評価される場合でも,借主側との信頼関係が破壊されているので,民法598条1項但書(使用収益をするのに足りる期間を経過した)の類推適用により,使用貸借契約の解約が認められる,といった主張をしていくことになります。
使用貸借事案で使用貸借契約の終了が認められるかどうかは,借主側が建物を建てるにあたって,地主側とどのような内容の合意があったと評価されるかや,地主が土地明渡しを求めるに至るまで,借主側との間で,信頼関係が破壊されるような出来事があったか等によって,最終的には裁判所が判断することになります。
ただで貸しているのだからいざとなったら明渡しを求められるはず,と思われるかもしれませんが,意外に使用貸借終了による土地明渡請求の案件は,一筋縄ではいかないケースが多いといえます。
駐車場等の土地明渡請求
駐車場など,建物所有を目的としない土地の賃貸借契約では,借地借家法の適用はありませんので,同法の適用がある場合と比較して,使用料不払いや契約違反による賃貸借契約の解除,土地明渡請求は認められやすいといえます。
もっとも,「自力救済」(法的手続を取らずに自力で残置物を撤去するなどして権利救済を実現してしまうこと)は禁止されていますので,例えば,駐車場代を滞納したまま契約車両を放置されたようなケースでは,賃貸借契約解除→土地明渡請求の裁判→判決に基づき土地明渡の強制執行,という法的手続をきちんと取らないと,車両の撤去ができません。土地所有者に負担をかけすぎではないかと思いますが,残念ながら現在の法制度はそのようになっています。
弁護士に交渉や訴訟を依頼するメリット
以上にみたように,土地明渡請求にも様々なケースがありますが,借地人側の権利が借地借家法で保護されていることもあり,なかなか簡単にはいきません。
訴訟になった場合の見通しを踏まえて,弁護士が交渉することで,手続上のミスをせずに着実な交渉を行うことができます。
また,交渉で解決しない場合でも,訴訟を弁護士に依頼することで土地明渡しを実現できるケースも相当程度あります。訴訟の提起後,一定の立退料の支払等を内容とする裁判所での和解によって解決するケースもかなりあります。
土地明渡請求でお悩みの方は,是非弁護士にご相談ください。