借地権の買取交渉
借地権者から借地権を買い取れる?
いったん建物所有を目的として土地賃貸借契約を結ぶと,契約は長期間にわたります。借地権者の権利は借地借家法で強く保護されており,借地権者が建物を建てて使用している限り,よほどのことがないと契約が続くことが多いといえます。
しかし,例えば借地権者の代替わり(相続)のタイミング等で,借地権者の側が,借地権を手放して現金化したいと考えることがあります。
そのようなタイミングでは,借地権者との交渉により,借地権を買い取って,土地全体の所有権を回復できることがあります。
借地権の買取価格について
借地権買取りの交渉の一番のポイントは,当然ながら買取価格です。
借地権買取価格は,通常,「更地の時価×借地権割合-譲渡承諾料相当額+建物価格」という形で算定することが多いといえます。
更地の時価については,不動産業者に査定書を求めたり,不動産鑑定士に意見書・鑑定書を求めるなどして,取引事例比較法等によって算定します。
借地権割合は,国税庁の路線価図における借地権割合が基本となりますが,路線価図における借地権割合が前提としている土地の利用方法と,現況の利用方法とが異なっているような場合には,修正を主張します。
譲渡承諾料については,借地権者が第三者に借地権を譲渡する際,地主の承諾の対価として支払うことが必要なものであり,相場は,借地権価格の10%とされています(東京地方裁判所調停部の運用も同様です。)。
地主が借地権を買い取る場合に,譲渡承諾料相当額を差し引くというのは一見おかしい気もしますが,借地権を商品と考えると,譲渡承諾料はこの商品を売却する際に必然的に発生する費用と捉えることができます。
後述する,借地非訟での介入権行使の場合に,地主による借地権買取価格を裁判所が判断する場面でも,借地権買取価格の算定にあたって,譲渡承諾料相当額を控除することが行われています(東京地裁平成2年7月16日決定等)。
建物の価格については,不動産業者に査定書を求めたり,不動産鑑定士に意見書・鑑定書を求めるなどして,原価法等によって算定します。
建物を取り壊す場合には,解体費用の負担についても協議して決めます。地主による借地権買取は,土地賃貸借契約終了に伴う原状回復の場面に類似するため,通常は,借地人側の負担とすることが多いと思われます。
等価交換について
借地が広く,地主の自己所有地に隣接しているような場合には,地主と借地人との間で交渉して,借地を分筆し,借地権割合に相当する部分を借地人の単独所有とし,底地権割合に相当する部分を地主の単独所有とするために,分筆後の土地Aの借地権と,土地Bの底地権とを等価交換する,といった手法もあります。
介入権の行使について
借地人が,地主ではなく第三者(不動産業者等)に借地権(通常は,借地権付き建物)を売却する場合には,地主の承諾が必要となります(民法612条1項)。
借地人から譲渡の承諾を求められた場合,借地権を買い取りたいと考える地主としては,譲渡承諾を拒否するという選択肢があります。
譲渡承諾を拒否された借地人は,借地非訟という手続を裁判所に申し立てて,地主の承諾に代わる許可を裁判所に求めることができます(借地借家法19条1項)。この申立てがあった場合,裁判所が定める一定期間内に地主から優先買受けの申立て(地主が自ら借地権付き建物の譲渡を受ける旨の申し立て)をすることで,当該第三者に優先して,裁判所の定める対価をもって,借地権付き建物の譲渡を受けることができます。これを一般に「介入権」と呼びます。
裁判所は,譲渡対価を定めるにあたっては,鑑定委員会の意見を聴きます(借地借家法19条6項)。
この介入権行使によって,借地権が第三者に譲渡されることを阻止し,地主が適正価格で買い取ることができます。
借地権買取交渉等を弁護士に依頼するメリット
借地権の買取交渉は,通常の土地の購入と比較して,法律的な問題が様々にからんできます。借地権買取交渉や介入権の行使を弁護士に依頼することで,地主と借地人との間の感情的な行き違い等をひとまず措いて,法的観点から,冷静で客観的に合理的な線での解決を目指すことが可能となります。また,交渉に伴うストレスも軽減できます。
借地権買取交渉をお考えの際は,不動産に強い弁護士に相談することをお勧めいたします。